多くの犬がシェルターに保護され、家族を必要としているという情報をより広く世間に浸透させることの意義。

アメリカ、ワシントン州の保健所『Washington Country Animal Shelter』によるある呼びかけが、多くの優しい愛犬家の心を揺さぶりました。それは、シェルターに収容されている犬達のために古いセーターの提供をお願いするというもの。集められた古いセーターは、犬達のサイズに合わせて作り直されます。ワシントンの冬の寒さは有名ですが、シェルターにいる犬達にも温かく冬を過ごさせてあげたいという職員の思いから始まったこの取り組み。シェルターのフェイスブックには、寄付されたセーターを着た犬達の写真がプロフィールと共に投稿されています。

興味深いのが、この投稿を見た人々のコメント。小さなプードルのルーシーの記事に寄せられたコメントは下記の通り。

「この子はもう譲渡されたの? 私はミシガン在住だけど彼女をもらいたいのですが」

「こんな可愛いコ、見たことないわ!」

「小型犬が欲しいという友人がいるので話してみます!」

セーター云々より、投稿された犬そのものへの関心が伺えます。

ホームレスと暮らしていた7才のミックス犬、パッチは投稿されて1週間後に里親さんが決まり譲渡されています。

少々くたびれたセーターを着た彼らは、可哀想なボロボロの保護犬ではなく、普通の家庭犬に見えます。それだけになおさら彼らの境遇が不条理なものに感じられるのかもしれません。こうしてセーターを着た彼らの姿が投稿されることで「保護犬」という複数形から一歩前に出た「際立つ個性を持つ1匹」として人々の視線を引きつけ、譲渡のきっかけにもなるということは、注目に価すると言えます。おそらく、彼らの姿が表に出て来なければ、譲渡はもっと先送りになったのではないでしょうか?

日本でも保護犬に対する関心はこの数年の間にずいぶん高まり、SNSでも新たに保護された犬やシェルターにいる犬の情報、里親会の告知などが、日々たくさん流れてきます。けれど、こうした情報に積極的にアクセスするのは、殆どがすでに犬を飼っていて保護犬にも関心を持つ人達。そうではない人の多くは、まだまだペットショップに犬を買いに行きます。

問題の一つは、保護犬またはシェルターの存在が一般には見えづらく、街中や郊外で大きな看板を掲げる大手ペットショップほど身近ではないこと。まず、より多くの人々が保護犬の存在を知るには、現状より幅広い層に向けた呼びかけが必要になるのではないでしょうか。

一つの戦力になるのは、知名度があり訴求力のある企業の協力。

代表的な例とも言えるのが、昨年、シンガポールのIKEAが保護団体とコラボした「Home For Hope」というプロジェクトです。

このプロジェクトは、店内のあちこちに保護犬の等身大のパネルを設置し、それにつけられたQRコードをお客がスキャンすれば、その犬の情報を見ることができるという方法で、犬のいる生活を来店者にイメージしてもらい、保護犬の里親になる選択肢を提案するというものでした。

また、カーペットの上やソファの上に「お座り」している犬たちを見ると、顧客は、「犬のいる生活」を想像することも出来るのです。IKEAの買い物客は、新生活を始める人も少なくないので、新しい家族(ペット)に興味を持ってもらい、「里親になる」という選択も考えてもらえる。家具を買う顧客が、別の分野では、見込み客にもなりえるという良い例なのです。

通常、犬を保護しているシェルターでは、ソーシャルメディアなどを通じて里親探しを実行しているが、その場合フォロワーのほとんどが、すでにペットを飼っている人々であるため、里親探しは難航しているのが事実です。

実際にはこのIKEAの試みで里親が決まった犬は、36匹中、8匹でした。しかし、世界的な認知度を持つ会社がこのようなプロジェクトを行うことによって、多くの犬たちがアニマルシェルターに保護され、家族を必要としているという情報を世間に浸透させることに成功したのです。人々のなかには、「ペットは、ペットショップでしか買えない」と思っていた人もいるかもしれない。新しいペットを迎えるとき、里親になるという選択肢もあるのだ。からすればわずかということですが、犬とは全く関係ない家具メーカーが保護団体と手を組んだことは斬新で、メディアでも取り上げられました。保護犬に関心の薄い人々にも知らしめ得るという可能性を示した点で、大きな意義があります。

少しずつではありますが寄付集めと譲渡を目的とする保護犬に出会えるカフェ、保護猫に出会えるカフェが増えつつあります。街中では、鳴き声や衛生の問題があるため店舗確保は容易でなく、運営側も私財を投じながら寄付によって維持されることが多いので、クリアしなければならないことは山ほどあります。ですが、ペットフードや雑貨を普通に販売するお店で、保護犬を常時置いているペットショップが身近にあればどうでしょう?

犬を飼いたい人が身近なペットショップを訪れた時、そこにいるのが子犬ではなく保護犬であっても、出会いの確率が広がる分だけ譲渡の確率も高まるのではないでしょうか?保護活動に協力しているトリミングサロンなどでは、保護犬を預かってケアしながら里親を募集しているところもあります。本来の業態にプラスして保護犬の里親募集をすることは経費などの面で簡単ではありませんが、一つの可能性と言えるでしょう。

殺処分ゼロに向けてセンター側も努力をしていることは感じられますが、一般の人々とはまだまだ大きく距離があります。センターの多くが郊外の端っこに位置するという物理的な問題もありますが、それより「命が奪われる場所」というイメージ的な隔たりのほうが大きく感じます。小中学生による愛護センターの犬の散歩やシャンプー、犬舎の掃除、週末の譲渡会の手伝いなどを課外活動に組み込むといのはどうでしょう!多感な時期に本当の現実に向き合うことは、言葉だけの命の教育よりずっと心に訴える力が大きいのではないでしょうか。豊かな心を持つ人間を育てることは、次代につなぐ意味でも重要なことだと思います。

アメリカのシェルターによる取り組みは、寒い冬をシェルターで過ごす保護犬のために古いセーターを募るという当初の目的から発展して、その犬の存在がより広く知られ、譲渡の可能性が広がったことにこそ意味があると言えます。

高齢化による飼育継続困難、パピーミルの縮小などにより、今後ますます多くの保護犬があふれることが見込まれる今、たくさんの知恵を出し合い実現につなげていくことが求められています。

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