『それでも命を買いますか?』〜ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ〜

愛犬家の皆さんには、「殺処分ゼロ」を願う方も多いと思います。私もその中の1人で、以前から『保健所で二酸化炭素による殺処分で、苦しみながら死んでいく犬や猫がいるなんて許せない!』と、そんな気持ちを持っていました。

今でこそ「公益財団法人 動物環境・福祉協会Eva」を設立し、自ら理事長を務めるほど、ライフワークとして取り組んでおられる女優の杉本彩さんも、最初は子猫を保護して、里親を探したことが動物愛護活動の始まりだったそうです。現在は主に啓発活動を行っておられますが、その一環として出版されたのが、『それでも命を買いますか?~ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ~』です。

本書では、本当の意味での殺処分ゼロを実現するために必要なことが、率直な言葉で語られています。

「殺処分ゼロ」とは、文字通り、『処分される犬や猫がいなくなる』という意味の言葉です。ですが、行政が発表する殺処分の減少やゼロという数字の影には、保健所から動物を引き取る保護団体の存在があるのをご存知でしょうか。保護団体は動物を救いたい一心で、保健所から犬や猫を引き取り、里親探しをします。つまり、行政が発表する表向きの「殺処分ゼロ」の背景には、保健所に持ち込まれる→保護団体が引き出す、というサイクルが存在しています。これでは、行政が本腰を入れて動物愛護に取り組まないのも当たり前だと思いませんか?そこで杉本さんが提案するのが、「殺処分廃止」です。そもそも殺処分という行政業務自体がおかしいという、極めてシンプルな考えですが、そう言われれば、確かにその通りなのです。『1頭たりとも無駄に死なせない。それが実現しないと意味がない』ということなんですね。殺処分という制度があるのが前提で暮らしている私達ですが、海外からは「日本には犬や猫のアウシュビッツがある」と非難を受けています。

世界から注目される2020年の東京オリンピックまでには、殺処分が行われている恥ずべき状況を何とかしよう、という気運が保護団体の中では盛り上がっているそうです。しかし、それでは今現在も殺処分されている命はどうなのでしょう?2020年まで、あと3年ほどですが、その間にどれほどの命が人間の都合で奪われてしまうのでしょう? 『仕方ない』で、すまされる問題ではありません。飼いきれなくなったなどの理由で行き場のなくなった犬や猫を、殺してしまうという発想自体が常軌を逸していると、杉本さんは指摘しています。人として正しい感覚でとらえれば、遺棄して殺処分ということがどれほど不当なことかわかります。殺処分が行政業務として行われている以上、税金で処分が実行されているという現実もあります。「わたし達が納めた税金を犬猫を殺すのに使わないで!」そう声を上げる権利が、わたし達にはあります。殺処分を即刻廃止するところから、日本の動物愛護は始まると、杉本さんは強く指摘しています。

殺処分と同じく、子犬や子猫をショーケースに展示して販売しているペットショップも、日本では当たり前に受けとられています。

『子犬たちの幼い姿に「かわいい!」という声が上がるにぎやかな店内』

『親子やカップルなどが笑顔で動物と触れ合う楽しい場所』

そんなイメージがあると思います。ですが、ペットショップは楽しいけれど、本当にあれでいいのだろうか……と。

本書によると、日本のペットビジネスは「生体展示販売」をモデルに構築されているとのこと。それは子犬が1頭売れたほうが、グッズやフードよりも利幅が大きいからで、その利益を求めて大手のチェーンが参入してきたと言われています。ショッピングモールの客寄せに役立つことからも、ペットショップは重宝な存在だそうです。大手チェーンが参入すると『大量仕入れ・大量販売』にビジネスモデルが変化します。その結果、ペットショップは常に商品を提供するために大量に仕入れ「在庫」を抱えることになるわけです。でも高値で売れるのは月齢が幼い時だけで、ピークが過ぎれば値下げしていきます。それでも全ての「在庫」を売り切ることができないときは……?そう、物品と同じように在庫となった犬や猫は「処分」されるのです。以前は売れ残った犬や猫たちは保健所に持ち込まれていましたが、今では業者が保健所に持ち込むことはできません。そこで、個人名で保健所に持ち込んだり山などに遺棄したり、「引き取り屋」と言われる業者の手に渡ることになります。いずれも末路は「死」です。

大量仕入れの裏には、当然大量生産があります。本来、犬を繁殖させるのはブリーダーの仕事ですが、個人で大切にお世話しながらの繁殖では、市場に出回る子犬の数を確保できません。そこで、お金儲けのためだけに、子犬を「生産」しようとする業者が現れます。本来ならきちんと世話のできる頭数をはるかに超えた、子犬を増やすだけの「パピーミル(子犬工場)」がそれです。狭いケージに閉じ込められ、健康を維持できないほど無理な繁殖を強いられる犬たちがそこにはいます。生まれた子犬はオークション(競り)にかけられて、まさに物品のように取引されて、ペットショップの店頭に並ぶことになるのです。

では、こんな悪循環を断ち切るには、どうすればいいのでしょう?動物愛護の先進国であるドイツやイギリスなどでは、生体展示販売のビジネスモデルはもはやほとんど存在しません。杉本さんによると、それは人々の命に対する意識の高さで実現したということです。「生体展示販売は動物にとって過酷なのではないか?」という国民の声から、ペットショップに対する規制が強まったそうです。その結果、生体展示販売の「うまみ」がなくなり、ショップの手間もコストもかかるため、ペットショップという業態から手を引く業者が続出したのです。つまり、他ならぬ私たち一人一人の意識の高さこそが大事と言えます。「動物をモノとして扱っていいのか?」その問いかけに1人1人がNOと答えることで、動物たちの置かれる状況も変わっていくということです。

少なくとも、ペットショップに厳しい規制をかけることで、衝動買い→遺棄という悪循環は断ち切られます。そして、個人にしても業者にしても、動物を遺棄することは「犯罪」であるという事実をしっかりと認識すべきなのです。現行の動物愛護法では、「愛護動物を遺棄したものは、100万円以下の罰金に処する」と定められています。「飼えないから捨てる」行為が、法律で犯罪と規定されていることを、実際はどれほどの人が認識しているでしょう? 個人だけでなく行政や警察に至るまで、動物を捨てることは取り締まるべき犯罪なのだと、しっかり認識すべきなのです。犯罪である以前に、人として許されない行為だと、杉本さんは断言しています。

ここまでご紹介した内容は、『それでも命を買いますか?』のごく一部です。本書では、殺処分をめぐる負のスパイラルから、実際の保護活動の内容、そして未来に向けての提言まで、現在の犬や猫たちが置かれた状況が網羅されています。『今の日本のペット状況、ちょっとおかしいんじゃない?』と思う方は、ぜひ手に取ってみてください。

メディアで活躍する杉本さんが、スポンサー等のしがらみがある中で、このような本を出されたことは、とても勇気のあることで称賛に価すると思います。ぜひこちらの本をご覧いただき、今一度命の大切さを考えて頂ければ幸いです。

PAGE TOP