「安楽死」が禁止された台湾の、今。

殺処分ゼロは全世界の愛犬家が願うところですが、安楽死を禁止する法律の施行から半年を迎えた台湾では、大きな問題が起きています。施行までには2年間の準備期間がありましたが、当初から不安視されていた事態が現実となっているのです。それは、各シェルターに犬や猫たちが溢れかえり「すし詰め」になった結果、亡くなる犬までいるという現実でした。

台湾では、2015年の2月から2年後の殺処分廃止に向けて動物保護法改正法が成立し、2017年2月6日、台湾政府はインドに次いでアジアで2番目に殺処分を全面的に廃止しました。

みなさんの記憶にまだ新しいかと思いますが、2016年5月、台湾で女性獣医師のチェンさんが動物の安楽死に使われる薬で自らの命を絶ち、安楽死がどれだけ辛いことなのかを国民に訴えた、という悲しい出来事が起きました。こうした事件や殺処分ゼロを望む世論の高まりを受けて施行されたのですが、当初からシェルターに収容しきれなくなるのではないか、という懸念の声もありました。それを防ぐために、飼い主の責任を明確にし命の大切さを学校でも教育し、避妊措置の徹底なども行われたはずなのですが、施行から半年を迎え大きな問題が浮上してきたのです。

殺処分禁止の法律が施行される前から、台湾のシェルターは常に資金不足と人手不足に陥っていました。それは施行後も変わっていません。しかし、次から次に収容されてくる犬猫たちが増え続け、シェルターの収容キャパは限界に達してしまったのです。台湾の22の行政区域には33の公共シェルターがありますが、農業評議会の調べによってほとんどのシェルターが収容数を大きく超えていることがわかりました。台湾の動物虐待防止協会(SPCA)のプロジェクトマネージャーであるチュウ・ユシャンさんは、過密状態による危険性を語っています。

「すし詰め状態で収容すれば、互いに噛む可能性や病気が蔓延する可能性がある」

そして、それは現実のものとなります。暑さと湿度、そしてケンカ、快適とはほど遠い環境下のシェルター内では、死亡する犬たちが出始めたのです。施行前から殺処分ゼロを実行していたシェルターでは、2017年2月、恐れていたパルボウイルス感染症が蔓延し、結局のところ72匹もの犬たちが殺処分されてしまいました。シェルター管理者によると、資金も人手も不足している中、シェルターに収容される動物の数は明らかに増えているとのこと。「殺処分ゼロを遂行するために、過剰に収容するしかない」という矛盾した現実の裏で、シェルターに入ったばかりに命を失う動物たちが後を絶ちません。

シェルターの2倍にもなる収容状態のため十分な医療対応もできず、間に合わせのスペースに動物たちを収容しています。もうこれ以上収容することができないため、やむを得ず人懐っこい犬や子犬は後回しにし、危険な要素を持つ犬だけを捕まえ始めました。しかし、それでも一向に数を減らすことはできない状態です。表向き、殺処分数はゼロになったものの、シェルター内で死んでしまうようでは、政策の成功とは言えません。施行の2年前から殺処分をストップしていた台南市のシェルターでは、捕獲後に不妊去勢手術を行い元の場所に戻したり、使役犬としての訓練プログラムなどを試みてきました。しかし、こうした試みもさほど効果はなく、取り立てた解決策はありません。

動物愛護活動家は、この台湾の問題に対して「放棄しないで、不妊去勢手術を」と働きかけています。また、マイクロチップの埋め込みも遺棄防止に繋がるのですが、台湾ではマイクロチップや不妊去勢手術を浸透させるのは困難だと言います。飼い主は犬を傷付けることに懐疑的であったり、マイクロチップの必要性に疑問を持つ人もいたりと、なかなか意識改革は進んでいません。多くの飼い主は、自分のペットにマイクロチップを埋め込むことで責任を負わされることを懸念しているのです。殺処分ゼロを実現するためには、一度飼った犬は絶対捨てない、不用意な出産を防ぐ、マイクロチップの装着などで自らの責任を明らかにする、といった個人レベルでの対応が最低限必要です。殺処分ゼロ政策に成功しているオランダでは、すべての飼い主に生後7週以内の子犬にマイクロチップの装着を義務付けています。台湾にもこうした規則はあるものの、問題はそれらが強制ではないことだと言います。そうした意識の飼い主が増え、実際に保護犬の数が減ったあとでなければ、安楽死を廃止してはいけないのかもしれません。

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